不思議なご縁です。今から
二十数年前の事ですが、感じの良いご老人が皐月を見に来られました。
その頃当園で人気が高かった
「花蓮光」を見て、「台湾にいた頃、花蓮港と言う港があったので字は違うが懐かしい。」とのこと。
花も大変気に入られて、配達を条件にお買い上げ頂いたことが印象に残っています。
十年ほど前、知り合いの高校の先生からの頼みで、フランスからの短期留学生を預かる事になりました。その学生の友人を預かっておられた同じ高校の先生のお宅まで、留学期間中、毎日車で送るということがありました。
それから3?4年後、奥様からのお電話でご主人である先生が亡くなられ、皐月を預かってもらえないだろうか?とのご連絡を頂き…。
どうにか生きていた3鉢の皐月を預かり、その後2鉢は枯れてしまいましたが、
残った1鉢が何とあの時の「花蓮光」だったのです。後でその事に気づき奥様とお話ししていたら、最初お買い上げになったのは、
亡くなられたご主人のお父様で、生前とても大切にされていたそうで、その木が生き残って良かったと言われました。
まだ細い若木だったものを素人の方が長い期間愛培されていて、形はお世辞にもほめられたものではなかったのですが、どうにか生き延びてきた姿に何となく昔の面影を見ることができ、懐かしさを感じました。形を整える事より、とにかく枯らさないように樹勢をつける事を気がけ、角鉢に入っていたものを素鉢へ替えて培養し、ようやく勢いがつく所まで来ました。
すると先日奥様からお電話がありました。
近日中にご主人の法事のためアメリカ在住の弟さんも帰国されるので、ご一緒に来園されて、その「花蓮光」を眺めたいと。
大切な役目を果たす事となった「花蓮光」は手入れされ、少し大きめの化粧鉢に入り(後の管理を考え)その日を待っています。
↑『花蓮光』
お久しぶりです。仕事はいつもどおりやっていたのですが、夏の後半は極端に雨が少なく害虫の発生も多く、水やりと消毒に追われ、それに草刈りもしなければならず、体力の無さに年を感じてしまいます。
それでも
9月に入るとお客様から最新花を探すように頼まれ、目を覚ます事となりました。
幸いにも私の周りには少数ではありますが、
純粋に皐月を趣味として楽しんでおられる熱心な愛好家様がいらっしゃるので、最新花を仕入れることで新しい花を楽しむ事ができ、大変感謝しています。
花が咲いていない時期でも花が命とも言える皐月を売り買いできるのは、30年にわたる業者やお客様との信頼関係によるものに他なりません。
常連のお客様が目を付けられる最新花は、まず間違いなく美しく、私の商売においても力強い原動力となり助けられています。
最近では知らないお客様が来園されても、どんな皐月を探しに来られたのか全く予想がつかず、戸惑ってしまいますが、
当園で咲いた皐月の写真をお見せしながら、最新花の美しさ、素晴らしさを説明していると、最新花に興味を示されるお客様もおられ、かすかな光が見えるようになって来ました。
私は思うのですが、初心者の方が見栄えが良いからと
盆栽型の皐月を手に入れられても、
それ以上良くなるどころか形を維持することさえ難しく、すぐに挫折される事でしょう。
その点美しい
最新花は新しい品種なので太い木はなく、
細くても恥じるどころか出回っている数が極めて少なく、最先端を行っている優越感さえ持てるのではないでしょうか。更に花が咲き始めれば、その美しさは圧倒的で
今までに見た事もない素晴らしい花に包まれ、一人で眺めているのがもったいないと思われる事でしょう。
美しい花は女性にも支持され、家庭の中で楽しむ事が出来、
さつきブームと呼ばれる現象まで起きたのは、その事が大きな要因だと思います。
皐月の花の進化は留まるところを知らず、「晃山」系においては「蛍火」や「日の丸」へと進化し、花芸の良い「三姉妹」は親である名花「萌香」を寄せ付けません。
「翠扇」系においては素晴らしい花が限りなく作出されていて、花に興味を持って見ればどこまでも楽しむ事が出来るでしょう。
それが
皐月を楽しむ原点だと思います。

↑五月晴

↑彩春

↑新生